新型コロナウイルス感染症にかかると、においの異常(嗅覚障害)あじの異常(味覚障害)を自覚することがあります。


新型コロナウイルスは、細胞の表面にあるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合して細胞内に入り込んで増殖します。

このACE2受容体は鼻の上皮細胞で多く発現していることが分かってきました。ACE2受容体の発現は小児では少なく、年齢が上がるにしたがって多くなることが分かってきており、もしかしたらこのことが新型コロナウイルス感染症が小児に少ない理由の一つなのかもしれません。

味覚障害については、嗅覚障害に起因する風味障害によるものと考えられますが、まだ不明な点も多いのが現状です。


急に嗅覚(におい)や味覚(あじ)が分からなくなった方は、新型コロナウイルス感染症の初期症状の可能性があります。

少なくとも10日間は不要不急の外出や安易な受診は控えていただき、受診を希望される場合はオンライン診療の利用をご検討ください。

嗅覚・味覚障害自体は自然に回復することも多いため、決して治療を急ぐ必要はありません。

新型コロナウイルス感染症が心配なときには、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトが分かりやすくまとめられていますので、ご確認いただくのが良いと思います。


発熱や咳などの他の症状がなく、嗅覚障害や味覚障害が10日以上経過しても改善しない場合は、耳鼻咽喉科受診をご検討ください。

嗅覚障害の原因として最も多いのは慢性副鼻腔炎ですが、当院では副鼻腔CTを併用してにおいのセンサーがある嗅裂を中心に鼻の中の状態を詳しく調べることが可能です。

脳の病気が原因でにおいがしない中枢性嗅覚障害(頻度は少ないです)が疑われる場合は、連携施設で頭部MRIを撮ってきていただくことをおすすめしています。

新型コロナウイルス感染症で嗅覚障害があった患者のCT/MRIで嗅裂が閉塞している所見を認めた(ただし明らかな副鼻腔炎はなし)との報告があります。

T&Tオルファクトメーターを用いた嗅覚検査は、脱臭装置が必要になることもあって限られた施設でしか行うことができません(当院にもありません)。

ただ、新型コロナウイルス感染症が蔓延している状況では嗅覚検査を受けていただくことはなかなか難しいのが現状です。

的確に原因の鑑別を行った結果、新型コロナウイルス感染症に関連した嗅覚障害が疑われ、かつ2週間以上改善しない場合は、感冒後嗅覚障害(風邪を引いた後ににおいがしない状態が続いている)に準じて治療を検討するのが妥当とされています。

その場合は、漢方薬(当帰芍薬散)嗅覚刺激療法が治療の中心となりますが、長期間に及ぶことが多いので粘り強く治療していただくことが必要になります。

<漢方薬(当帰芍薬散)>

感冒後嗅覚障害の場合に有効性が報告されています。有害事象の報告はないものの、多くの場合は長期間の内服が必要になります。

<嗅覚刺激療法>

4種類の嗅素(バラ、ユー カリ、レモン、クローブ)を1日2回朝晩10秒程度、12週間嗅ぐという方法です。感冒後嗅覚障害(Hummel T et al., 2009)外傷性嗅覚障害(Konstantinidis I et al., 2013)において、その有効性が報告されています。


<新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と嗅覚・味覚障害に関する主な報告(随時更新予定)>

Lechien et al., 2020. Olfactory and gustatory dysfunctions as a clinical presentation of mild-to-moderate forms of the coronavirus disease (COVID-19): a multicenter European study

COVID-19患者(軽症〜中等症)417名(女性263名)のうち、嗅覚障害を85.6%、味覚障害を88.0%(両者は有意な相関あり)に認めた。11.8%で他の症状に先行して嗅覚障害が出現。44.0%で嗅覚障害が早期に回復した。男性よりも女性の方が有意に嗅覚・味覚障害が多かった。

Spinato et al., 2020. Alterations in Smell or Taste in Mildly Symptomatic Outpatients With SARS-CoV-2 Infection

COVID-19患者(軽症)202名のうち、嗅覚あるいは味覚異常を訴えたのは64.4%であった。女性の方が多かった。

Tong et al., 2020. The Prevalence of Olfactory and Gustatory Dysfunction in COVID-19 Patients: A Systematic Review and Meta-analysis

嗅覚障害10論文・味覚障害9論文からのメタアナリシス。COVID-19患者の52.73%に嗅覚障害、43.93%に味覚障害を認めた。

Moein et al., 2020. Smell Dysfunction: A Biomarker for COVID-19

The University of Pennsylvania Smell Identification Test (UPSIT) スコアにてCOVID-19患者60名中59名(98%)で嗅覚障害を認めた。UPSIT スコアと性別、COVID-19の重症度、または併存症との有意な関連はなかった。

Yan et al., 2020. Association of chemosensory dysfunction and COVID‐19 in patients presenting with influenza‐like symptoms

インフルエンザ様の症状がありCOVID-19陽性だった患者のうち、68%に嗅覚障害(そのうち74%は数週間以内に改善)、71%に味覚障害を認めた。COVID-19陰性だった患者の場合は、嗅覚障害16%、味覚障害17%であった。COVID-19感染と嗅覚障害・味覚障害と強く関連しており、スクリーニングに有用である可能性がある。

Sungnak et al., 2020. SARS-CoV-2 entry factors are highly expressed in nasal epithelial cells together with innate immune genes

コロナウイルスは感冒後嗅覚障害を引き起こすことが知られている多くの病原体の1つであるが、鼻上皮細胞では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の侵入に必要なACE2受容体が比較的強く発現していた。

Bunyavanich et al., 2020. Nasal Gene Expression of Angiotensin-Converting Enzyme 2 in Children and Adults

鼻腔上皮における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞侵入の足場となるACE遺伝子の発現は、10歳未満の小児で最も弱く、年齢が上がるにつれて強くなっていた。

Eliezer et al. 2020. Sudden and Complete Olfactory Loss Function as a Possible Symptom of COVID-19

COVID-19+嗅覚障害患者では、CTとMRIで両側嗅裂の炎症性閉塞所見(嗅球は正常)を認めた。

Whitcroft&Hummel, 2020. Olfactory Dysfunction in COVID-19 Diagnosis and Management

COVID-19に関連した嗅覚障害が2週間を超えて続く場合は、 感冒後嗅覚障害に準じた治療を検討するのが妥当であるが、有効性は不明である。

日本橋浜町耳鼻咽喉科