嗅覚障害
新型コロナウイルス感染症と嗅覚障害の関連については、こちらをご覧ください。
嗅覚は、ヒト以外の哺乳類の場合、獲物(食物)の獲得、異性の判別(子孫繁栄)に重要な感覚能とされています。嗅覚が障害されると、生命の維持や子孫の衰退といった危機的状況を招きます。
現代人の場合、嗅覚が障害されても生命の維持や子孫繁栄に影響しませんが、香水やアロマ、食事、飲み物などの香りや風味が損なわれたり、食物の腐敗、ガス漏れや煙に気づかないと、日常生活の危険にさらされることになります(QOL(生活の質)の低下)。
嗅覚障害がある高齢者は、認知機能が有意に低く、寿命が短いことが報告されています(Pintoら、2014)(Ekströmら、2017)。
【原因】
① 気道性嗅覚障害(においが嗅粘膜に届かないタイプ)
慢性副鼻腔炎の中でも好酸球性副鼻腔炎では、比較的早い段階で嗅覚障害が出現することが知られています。
② 嗅神経性嗅覚障害(においの神経がダメージを受けているタイプ)
風邪を引いた後(感冒後嗅覚障害)、頭部外傷など
③ 中枢性嗅覚障害(頭の病気が原因でにおいがしないタイプ)
脳挫傷、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症など
パーキンソン病やアルツハイマー型認知症といった神経変性疾患では、主な症状である運動障害や認知症状が出現する前に嗅覚障害を発症することがわかってきました。嗅覚障害を診断することにより、神経変性疾患の早期発見・早期治療、病気の進行予防や治療効果に繋がる可能性があります。
【診断】
当院では詳細な問診と内視鏡と副鼻腔CTでにおいのセンサーがある嗅裂を中心に鼻の中の状態を確認し、必要に応じて嗅覚検査、頭部MRI(脳の病気が疑われる場合に行います)を連携施設で受けていただき、的確に原因の鑑別を行っています。
【治療】
① ステロイド点鼻・内服
慢性副鼻腔炎が原因の場合に有効です。長期に使用する場合、副作用(骨粗しょう症や副腎抑制など)に注意が必要です。
② 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)
慢性副鼻腔炎が原因の場合に有効です。
③ 漢方薬(当帰芍薬散)
感冒後嗅覚障害(風邪を引いた後ににおいがしない状態に続いている)の場合に有効性が報告されています。有害事象の報告はないものの、多くの場合は長期間の内服が必要になります。
④ 嗅覚刺激療法
4種類の嗅素(バラ、ユー カリ、レモン、クローブ )を1日2回朝晩10秒程度、12週間嗅ぐという方法です。感冒後嗅覚障害(風邪を引いた後ににおいがしない状態に続いている)(Hummel T et al., 2009)と外傷性嗅覚障害(Konstantinidis I et al., 2013)において、その有効性が報告されています。