中央区学校保健会だより「小児における花粉症 Q&A」のタイトルで寄稿させていただきました。


本稿が発行される3月中旬はスギ花粉症シーズン真っ只中です。今春のスギ花粉の飛散開始は2月11日頃で、飛散量は例年並みですが、昨年よりはやや多くなる見込みです(本稿を書いている1月上旬時点)。今回は小児の花粉症について皆様からよく聞かれることをQ&A形式でまとめてみました。

Q. 小児の花粉症は増えていますか?

A. 耳鼻咽喉科医およびその家族を対象とした全国疫学調査によると、小児におけるスギ花粉症の有病率は、5-9歳で13.7%(2008年)→30.1%(2019年)、10-19歳で31.4%(2008年)→49.5%(2019年)とここ10年ほどで顕著に増加しています。通年性アレルギー性鼻炎が微増に留まっているのと対照的です。

Q. 花粉症をどのように疑って受診すれば良いですか?

A. 鼻みず、鼻づまり、眼のかゆみといった症状の訴えがあれば分かりやすいと思いますが、いびきをかく、鼻をこする、鼻出血が頻回に起こる、眼の下にくまがある、などが見られる場合も花粉症を疑って早めに受診されることをおすすめします。

Q. 花粉症の診察はどのように行っていますか?

問診と鼻内所見から花粉症と診断して内服薬や外用薬を処方することも多いですが、感作している抗原の種類を同定する場合は血液検査や皮膚テストを行います。日本では前者が主流ですが、最近では指先から少量の採血を行い、約20分で結果が分かる検査もあります。

Q. 内服薬の眠気が心配なのですが、どのように対応すれば良いでしょうか?

A. 第二世代抗ヒスタミン薬の多くは眠気などの副作用が少ないとはいえ、薬の種類によってその効果、副作用の出方に個人差があるのは否めません。初めて使用する内服薬の場合、まず1-2週間使用していただき、特に問題がなければ長めに処方しています。どうしても眠気に困る場合、また鼻づまりで困る場合は、次に述べる鼻噴霧用ステロイド薬、他に抗ロイコトリエン薬、漢方薬への変更、もしくは追加で対応しています。

Q. 鼻噴霧用ステロイド薬は小児でも安全に使用できますか?

A. 小児適応がある鼻噴霧用ステロイド薬(ナゾネックス®︎、アラミスト®︎など)は、身体に吸収されるステロイドの量が少なく、安全に使用することが可能です。鼻づまりがあるときのみではなく、毎日噴霧することが重要です。ステロイド内服薬(セレスタミン®︎など)は、成人の重症例に限って頓服として処方することがありますが、副作用が強く小児に対して処方することはまずありません。市販薬に多い点鼻用血管収縮薬は、連用すると薬剤性鼻炎の原因になりますので、極力使用しないようにしましょう。

Q. 眼のかゆみにはどのように対応すれば良いですか?

A. セルフケアとしてマスクの他に、花粉防止眼鏡や人工涙液(薬局で購入可能)による洗眼が有効です。抗アレルギー点眼薬を処方されることが多いと思いますが、点眼薬もかゆみがあるときのみではなく、毎日決められた回数を使用することが重要です(最近では1日2回で済む点眼薬もあります)。ステロイド点眼薬は(特に小児の場合)眼圧上昇などの副作用が起こりやすく、抗アレルギー点眼薬を適切に使用してもかゆみがひどい場合は眼科専門医に相談されることをおすすめします。

Q. 花粉症は治りますか?

A. 花粉症を一旦感作・発症してしまうと自然寛解はまず期待できませんが、アレルギーの原因であるアレルゲン(抗原)を含む治療薬を舌の下に少量から、徐々に量を増やして繰り返し投与することで、身体をアレルゲンに慣らし、症状の改善や根本的な体質改善を図る「舌下免疫療法」が広く行われるようになりました。長期(3〜4年)に渡ってきちんと治療を行うことで、くしゃみ、鼻みず、鼻づまり、眼のかゆみなどの症状の改善(約8割の有効率)や、QOL(生活の質)の改善、薬の使用量を減らすことが期待できます。新規アレルゲンに対する感作や喘息発症頻度が抑制されることなども近年報告されています。スギ花粉とダニがあり、両者を併用することも可能です。ただし、アレルゲンに対する身体の反応性が過敏になっている花粉飛散中に治療を開始することができません。6月以降に実施可能な耳鼻咽喉科や小児科に相談されることをおすすめします。

Q. レーザー治療は小児でもできますか?

A. 鼻粘膜をレーザー照射によって変性させ、鼻づまりなどの症状を抑える治療法です。個人差はあるものの、小学校中学年以上から可能です。薬による治療に抵抗する、忙しくて定期通院が難しい、内服薬で眠気などの副作用が出やすい、保護者の方がお子さんに長期服用を避けさせたい場合などにすすめられる治療法です。一時的に鼻症状が悪化するため、花粉飛散期にレーザー治療を行うことはすすめられませんが、該当する場合は今度の飛散開始前に実施可能な耳鼻咽喉科に相談されることをおすすめします。

Q. 毎年春に果物を食べると唇が腫れます。花粉症と関係がありますか?

A. 花粉症の人が特定の果物や野菜を食べたときに唇、舌、のどがかゆくなったり、腫れたりする「PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)」が近年増加しています。春の花粉症では、ハンノキやシラカンバ花粉症の人が花粉に含まれるアレルゲンとよく似た構造のものを含むリンゴ・モモ・大豆(豆乳)などの食物を摂取してアレルギー反応を起こすことが知られています。スギ花粉症の人もトマトの摂取でアレルギー反応を起こすことがあります。症状の出る食物の摂取は避けた方が良いですが、加熱処理されたものやジャムなどの加工食品は摂取できる場合が多いです。

日本橋浜町耳鼻咽喉科