急性中耳炎【みみの代表的な疾患】
. 急性中耳炎とはどのような病気ですか?
急性中耳炎(Acute Otitis Media: AOM)は、急性に発症した中耳の感染症であり、耳の痛み、発熱、耳漏(耳だれ)などを伴うことがあります。
原因となる微生物
急性中耳炎は、米国では小児に対して抗菌薬が処方される最も一般的な細菌感染症です。
• 細菌の関与: 近年の検査では、急性中耳炎例のほとんどが細菌性であることが示されています。中耳貯留液の調査では、細菌とウイルス両方が検出されるケースが65%、細菌のみが27%、ウイルスのみが4%と報告されています。
• 主な起炎菌: 主要な起炎菌としては、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)とインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)が挙げられます。これらは、多くの場合、小児の鼻咽腔に常在菌として存在しています。
主な症状
症状としては、耳の痛みや発熱などが典型的ですが、特に乳幼児(発語前の小児)では、耳をつかむ、引っ張る、こするなどの動作や、夜泣き、不機嫌といった症状で耳の痛みが推測されます。
2. どのように診断されますか?
急性中耳炎の診断では、鼓膜(つづみ)の所見を正確に把握することが極めて重要とされています。日本の診療ガイドライン(小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版など)では、詳細な鼓膜所見に基づいて診断および重症度を判定します。
• 診断の基準: 急性中耳炎と診断するには、中耳に貯留液(滲出液)が存在すること(必須項目)に加えて、中等度から重度の鼓膜の膨隆、または新たに生じた耳漏が認められる場合、あるいは、軽度の鼓膜膨隆があり、かつ発症48時間未満の新たな耳痛や高度の発赤がある場合、とされています。
• 重症度判定: 重症度は、年齢(24カ月未満は3点加算)、発熱、耳痛、啼泣・不機嫌、鼓膜の発赤、鼓膜の膨隆、耳漏などの項目に点数を付けたスコアに基づいて評価されます。
• 重症と判断される所見: 鼓膜の高度な膨隆がある症例は、特に抗菌薬治療の利益を最も受ける傾向があることが研究により示されています。
3. どのような治療方針が取られますか?
小児急性中耳炎の治療方針は、主に診断時の重症度によって決定されます。抗菌薬の不必要な使用は薬剤耐性菌の増加につながるため、重症度に応じた適切な使用が重要です。
(1) 抗菌薬治療と経過観察
• 経過観察(Watchful Waiting)の選択肢: 軽症例では、初期に抗菌薬を投与せず、3日間経過を追うことが推奨されています。また、鼓膜の形状(ティンパノグラム)がA型やC型を示している小児は、経過観察の候補となり得ます。米国では、24カ月以上の非重症例に対しては、経過観察(48〜72時間後に改善しない場合に抗菌薬を開始)が選択肢とされています。
• 抗菌薬の投与: 中等症や重症例、または経過観察で改善しない場合は、抗菌薬(主にアモキシシリンなど)による治療が行われます。
• 難治化のリスク: 両側罹患、集団保育、2歳未満の低年齢、および鼻副鼻腔炎の併発があるお子様は、中耳炎が難治化しやすい(治りにくい)リスク因子を持つことが知られています。
(2) 治療効果の判定と継続
• 治療効果の評価時期: 抗菌薬の効果判定は、通常、投与開始から3日後(48〜72時間後)に行うことが、国際的な基準や日本のガイドライン(2013年版)で推奨されています。
• 鼓膜所見の改善: 耳の痛みや発熱といった臨床症状は治療開始から2~3日目で改善し始めますが、中耳貯留液(ASMEE)はその後も1〜2週間ほど残ることが多いです。たとえ症状が治まっても、中耳貯留液が残っている間は治療を続けることが非常に重要です。
• 抗菌薬の変更: 投与開始3日後に症状の改善が見られない場合(スコアの変化が50%以下の場合など)は、抗菌薬の変更や増量投与が検討されます。
(3) 外科的治療(鼓膜切開など)
• 鼓膜切開術: 重症例では、抗菌薬治療と合わせて鼓膜切開術が推奨されることがあります。鼓膜切開の目的は、排膿(膿を出すこと)による菌量の減少、抗菌薬効果の促進、および中耳換気の改善などが考えられます。鼓膜全体が膨隆しているような重症例で、耳の痛みが強く夜間も眠れない場合に適用されることがあります。
• 鼓膜換気チューブ留置術: 繰り返し急性中耳炎になる場合(反復性中耳炎)や、長期間にわたり難治性で改善しない症例に対して、鼓膜換気チューブ留置が推奨されることがあります。
4. 予防について
• ワクチン: 肺炎球菌ワクチン接種は、重症肺炎球菌感染症の減少に大きく貢献しており、中耳炎の予防効果についても期待されています。
• キシリトール: 天然の砂糖代替品であるキシリトールは、肺炎球菌やインフルエンザ菌が鼻咽腔の細胞に付着するのを減らす可能性があり、急性中耳炎の予防法として注目されています。研究では、キシリトールはAOMの発症リスクを減らす可能性があると示唆されています。
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例えるなら
急性中耳炎は、耳の奥で起こった**「急な火事」**のようなものです。熱や痛みが伴いますが、適切な抗菌薬治療(消防活動)により、すぐに症状(炎)は治まります。しかし、火が消えた後も、中耳には水(貯留液)が残り、完全に乾燥する(治癒する)までには時間がかかります。貯留液が残っている間(無症候性中耳貯留液)は、次の火事(再発や難治化)を防ぐためにも、医師の指示に従って経過観察と治療を続けることが大切です。
日本橋浜町耳鼻咽喉科












